設問21 「関係妄想」についても、なぜそのようなことが信じられてしまうのか、具体的に説明してください。
設問21 統合失調の初期に生じやすく、多くの妄想の基礎にあるという「関係妄想」についても、なぜそのようなことが信じられてしまうのか、具体的に説明してください。
回答 「関係妄想」が信じられてしまうことの理由については、3つの面から捉えることが可能である。
1つは、前回みたように、その妄想の基礎には、実際に存在する幻聴の「声」があるということである。2つ目は、統合失調状況では、「自我」または「自己」が揺らぎ、崩れそうになることによって、「自他の境界」が曖昧になるということである。そこで、自己と世界との区別が失われ、世界のことごとくが、自己と関係しているような感覚が生じて来るのでる。3つ目は、統合失調状況では、ユングの言う「シンクロニシティ(共時性現象)」が、起こりやすいということであるが、これについては次回とりあげる。
解説 設問19でみたように、「関係妄想」は、「周りの人々が何かささやいている話とか、自分の周りで出くわす出来事などが、いちいち自分と関わっているように感じられる」というものです。統合失調状況に入る初期の頃に広く生じやすく、また、「関係妄想」はそれ自体が、様々な妄想の基礎にもなります。このように、とても重要なものですので、これについても、なぜこのようなことが信じられてしまうのか、具体的に知っておくことは重要です。
このようなことが信じられてしまう理由は、次の3つの面から捉えることができると思います。
1つ目は、前回もみたように、妄想一般について言えることですが、妄想が築かれる基礎に、本当に存在する幻聴の「声」があるということです。
たとえば、通りすがりの人など、多くの人が自分に非難や嘲笑の声をかけて来るとなると、自分が目にする他人の言動が、いちいち自分に関係していると疑ったり、感じるようになったとしても不思議はないでしょう。
さらに、幻聴の声が意識されていない場合でも、無意識の領域では声が聞かれていて、意識に影響を及ぼしているような場合は、声をかけて来るとは思わなくとも、何か他人が自分を気にし、注察しているような感覚に陥ってしまいやすいのです。これは、「関係妄想」とまでいかなくとも、その前段階の「妄想気分」のような、疑いの気分を生じさせることになります。
しかし、「関係妄想」は、他人の言動だけに関わるものではありません。自分の周りで起こる出来事や現象などが、ことごとく自分に関係しているように感じ、あるいは自分に向けられた攻撃のように感じてしまうことにもなるのです。そうなると、この妄想も、他の人には、とても信じがたい「了解不能」のものと感じられることになるでしょう。
それは、妄想自体が誇大化した結果という面もありますが、新たに生じた面にもよっています。
それが、2つ目の理由で、統合失調状況では、「自我」あるいは「自己」というものが、大きく揺らぎ、崩れそうになることによって、「自他の境界」が曖昧になるということが起こります。言い換えると、自己と世界を区切る境界が揺らぎ、あるいは外れて、互いに「融合」するかのような感覚に陥るのです。
人類学者レヴィ・ブリュールは、「未開社会」の思考法は、自他の区別のない同一性の視点に立つ、「融即」の法則に従うということを言いましたが、まさに、統合失調状況はそれと似たような状況をもたらすのです。
これは、統合失調になる人は、元々「自我」または「自己」が脆弱であるということにもよりますが、攻撃的な声に常にさらされていることや、そもそもそれまでの「現実」とは異なる、「統合失調状況」(私は、「霊界の境域」に入ることという言い方もしましたが)に入ることで、必然的に起こることでもあります。
近代人の言う「自我」または「自己」というのは、あくまで、近代社会の常識の中で、「物質的な世界」との関係で築かれて来たものだからです。そのような「未知の状況」が開かれて来たときには、そのようなものは、もはや機能しなくなるのです。
何しろ、そのような状況では、他人の言動だけでなく、それまではある距離とか壁で隔てられたていたと感じられた、世界との距離や区別が一気に縮まり、それらが自分と別でないような、あるいはいちいち自分と関係しているような感覚に陥るのです。
前回みた、「つつぬけ」や「さとられ」あるいは「させられ体験」というのも、このように、自他の境界が揺らぎ、互いに浸透するかのような状況に陥ったことが影響しています。自分の中にあるはずものが、自分の外に漏れ出したり、自分の外にあるはずのものが、自分の中に侵入してくるような感覚が起こるからです。あるいは、自分の行動も、自分が起こしているのではなく、外から他者によって起こされているという風に感じることにもなります。
このような状況は、精神医学では、当然ながら、「自我障害」とか、「解体症状」などと呼ばれて、「病理的なもの」とみなされています。
しかし、これは、それまで世界との区別をもたらしていた、「自我」あるいは「自己」というものが、揺らぎ、取り払われることによって、元々のいわば「生の現実」が姿を現したものという風に捉えることもできます。
実際、レヴィ・ブリュールも言うように、未開社会だけでなく、近代以前の社会では、多かれ少なかれ、このような世界との「繋がり」とか「関係」というものが、普遍的に認められていたのです。スピリチュアルの方面では、すべてのものの本質的な一体性、あるいは繋がりを意味する「ワンネス」などとも言われます。
だから、それは単純に「病的」あるいは「誤った」認識とは言えないのですが、やはり、統合失調の場合、恐怖や混乱から、そこに、様々な「歪み」をもった「解釈」を施してしまうということが言えます。
本来、誰もが、そのような「繋がり」や「関係」を持っているものであるにも拘わらず、自分だけが特別に世界と関係しているとか、全てのものが、自分を攻撃して来るかのような、否定的なものとして感じとってしまうということなどです。
従って、ある種の「真実」は含みつつも、その「解釈」は、やはり他の「妄想」一般と同じように、歪みをもった、「誤った」ものということにならざるを得ないのです。
繰り返しますが、統合失調の者も、それまで近代社会の常識の中で、「自我」または「自己」をもって「世界」と対峙していたのが、急に、そのようなものが外され、あるいは外れそうになっていることから、全くなじみのない未知の状況を招き、大いに混乱し、恐怖しているということの理解が必要です。
最後に、3つ目の理由は、2つ目のものとも大いに関連しているのですが、ユングの言う、「シンクロニシティ(共時性現象)」が、統合失調状況では起こりやすいということがあります。
これについては、多少入り組んだ説明が必要であるとともに、とても重要なものなので、次回改めて説明することにします。
« 設問20 「妄想」の基礎には「幻覚」があるということですが、なぜこれほど尋常でない「妄想」が信じられてしまうのか、具体的に説明してください。 | トップページ | 設問22 「関係妄想」のもとになるという「シンクロニシティ(共時性)」について説明してください。 »
« 設問20 「妄想」の基礎には「幻覚」があるということですが、なぜこれほど尋常でない「妄想」が信じられてしまうのか、具体的に説明してください。 | トップページ | 設問22 「関係妄想」のもとになるという「シンクロニシティ(共時性)」について説明してください。 »


コメント