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2024年8月25日 (日)

設問8 「幻覚」と聞くと、どうしても、「実際にはないものを見たり聞いたりすること」というイメージになってしまいますが。

回答 「幻覚」が、近代以降、「実際にはないものを見たり聞いたりすること」という意味で使われているのは事実である。しかし、それは、知覚の対象物として、「物質的なもの」のみが存在するという、近代の発想を反映しているに過ぎない。「幻覚」という言葉を変えることは難しいが、「幻覚」には、通常の(物質的なものの)知覚とは異なるが、実際に存在するものの知覚を含むという風に、意味合いを変えて理解することが必要である。

 

解説 「幻覚」というのは、英語の「hallucination」や「illusion」でも、日本語の「幻覚」でも、「実際にはないものを見たり聞いたりする」という意味で使われているのは事実です。読んで字のごとくで、「幻」を「覚する」ことなのだから、イッコーさんでなくとも(笑)、「まぼろし」という意味合いをそこに含ませるのは当然のことでしょう。

 

古典的には、「対象のない知覚」などと言われ、最近は、ウィキペディアでも、「外部からの刺激がないときに、現実の知覚と同じような性質を知覚すること」と説明されているようです。どちらも、「対象物がない」、「外部的な刺激がない」等、実際には「存在しないもの」を知覚することが意味されています。「対象物がある知覚」が、「現実の知覚」ということになります。

精神医学になると、「間違った知覚」とか「歪んだ知覚」などとも言われ、それが「正しくない」ものであり、「歪んだ」ものだから、「治さなくてはならないもの」という意味合いを強調されます。「幻覚」それ自体に、「病的」なイメージを、かなり強く塗り込んでいるということが言えます。

いずれにしても、これらは、「物質的なもの」のみが存在するものであり、「対象物」があることが、外界に確認できる知覚(実際には、後にみるように、多くの者が共通して知覚するということ)のみを「現実の知覚」とするという、「近代」の発想から来たものです。

本来、物質としての「対象物」がある知覚でなければ、それは「存在しないものである」とは当然には言えないはずだし、現に近代以前には、物質的でないものを知覚することは可能とされていました。しかも、それは、近代に比べれば、かなりの人に可能だったのですが、誰もが共通に知覚するわけではなく、一部の者の知覚する、一種の特殊な知覚であることには違いないものでした。

近代は、そのような、誰にも共通に知覚されるものでないものは、「幻覚」と呼び、存在しないものの知覚であることにしたのです。そして、さらにそれを、「間違った」「病的なもの」として、病気の症状の一つとしたのです。多くの者には知覚できない知覚、そのような「特殊」の知覚は、認めることのふさわしくないものとして、「排除」することにしたのです。

実際には、単に「幻覚」があるというだけで、ことごとく「幻覚」が「病気」とされたわけではありませんが、結局は、それによって、周りに危険な感じを与え、隔離させる必要を感じさせるようなものを、「病気」として、強制的に病院に隔離し、治療させることにしたのです。

その意味では、精神医学というのは、物質的なもののみを存在するものとする、近代の新たな発想を裏から支える、強力な執行機関の役目を与えられたと言えます。現実に、強制的な力をもって、それに反する物の見方をする者を「排除」するなり、「矯正」することが、できる立場にあるからです。

そのようにして、近代社会の発想が常識として行き渡ることになった現在、「幻覚」という言葉が使われる時点で、それは、「存在しないものの知覚」であり、「誤ったもの」だというイメージになってしまうのも、当然のことと言えるのです。

「幻覚」という言葉が使用されること自体が、強力なイデオロギー的な意味を帯びて、近代の発想や精神医学の発想を、当然視する見方を支えているのです。

ただ、(これは、「妄想」という言葉にも言えることですが)もはや「幻覚」ということで定着してしまった言葉を変えることは難しいし、「幻覚」という言葉を使いつつも、その意味合いを、通常の知覚とは確かに異なるが、実際に存在するものの知覚の一つであるという意味合いに変えていくことは、不可能ではないと考えます。

そこで、今後も、「幻覚」という言葉を使っていくので、私がその意味合いを、このようなのとして使っていくことは、押さえておいてほしいと思います。

また、統合失調の幻覚においても、上に述べたことは、全く当てはまるのですが、前回みたように、統合失調の人の幻覚を表現された形態でみる限り、明らかな「誤り」といえるようなものが多いことは事実なのです。妄想においては、それはさらに強まります。

それが、問題をややこしくしているし、統合失調の場合、「幻覚」=「誤り」という見方が当然視されるところはあるのですが、統合失調の人の見たり聞いたりしている「幻覚」そのものは、本来、実際に存在するものと言わなければならないということが、前回述べたことなのです。

次回以降は、幻覚についての脳科学の知見や、幻覚にも具体的に多くのものがあるので、それらを参照しながら、統合失調の幻覚について、さらに踏み込んでみていきます。

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