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2024年8月11日 (日)

設問4 精神医学も様々な観点から原因を探って行った結果、特定の原因を見つけることができなかったので、身体または脳の病気ということに落ち着いたのではないですか?

設問4  統合失調の原因は、様々な側面から探って行く必要があるということですが、精神医学もそのように様々な観点から探って行った結果、特定の原因を見つけることができなかったので、現在のように、身体または脳の病気ということに落ち着いたのではないですか?

 

回答 ある意味ではそのとおりだが、それは、身体や脳に原因が見出されたということなのではない。身体や脳の病気という見方の方が、もともと精神医学が誕生する段階から要請されていた、統合失調の「危険な状態」に対処するという必要性を満たすものと、みなされたからである。

 

解説 ある意味ではそのとおりです。

精神医学特に精神病理学や、精神分析では、当時なされていた、統合失調は「了解不能の脳の病気」という単純な見方に疑問をもち、主観的に了解し得るような原因や、無意識の奥に潜む原因について、様々に探究がなされました。あるいは、社会学的な観点から、統合失調が作り出される原因を探ろうとした人たちもいました。

そして、そのような探究は、それなりの説得力をもつものをもたらしました。

しかし、それらの探究は、人によって異なる結論で、統一性に乏しかったり、具体的に治療に結びつくような効果が、十分に見出されたというわけでもありませんでした。あるいは、一般には、単純に「母親の育て方」の問題とされるような見方もされ、母親に責任を押し付けることで済ますようなことも起きました。

これらの精神医学の探究や説については、後に、もう少し具体的に見ることになると思います。

何しろ、それらの探究は、統合失調の原因を見出し、対処の仕方を明確にするという意味では、必ずしも成功するものではありませんでした

設問13でも述べたように、統合失調への見方は、とにかく、現に現れている「危険な状態」を解消し、治療=対処の方法を明らかにするという必要性から生じているので、これらの探究は、そのような要請を満たすことができなかったと言えます。

それで、そのような要請を満たすものとしては、主観的な了解や無意識、社会的な関係などではなく、もっと客観的で、誰もに共通に当てはまる(少なくとも、そのような見かけを持つ)方法を編み出し、たとえば薬のような、身体医学と同様の物質的な方法でマニュアル的に対処し得るようにすることが必要と、多くの者には思われたのです。

そこに、科学技術の発展によって、ますますそのような物質的な方法こそが、医学の発展をもたらす道とみなされ、また、よりよい治療の方法が見出されるという希望的観測も強まり、現在は、設問2で述べたような、薬物療法中心の治療法や、マニュアル的な診断法が行き渡ったということが言えます。

だから、それらは、様々な観点からの原因の探究がなされた結果、十分のものが見出されなかったからでは確かにあるのですが、かと言って、身体や脳に、そのはっきりとした原因が見出された結果というわけでもないのです。

そもそも、たとえば日本では、明治の初期から、海外の精神医学を学んだ者やメディアにより、精神病は、(狐などの憑依現象ではなく)「脳の病気」という見方が強く押し出されて、西洋風の精神病院を作る運動が押し進められました。初期の頃、これらの病院は、「脳病院」という呼ばれ方もしました。

西洋でも、先ほど述べたように、もともと近代に、精神病は「了解不能の脳の病気」という見方があったのに反抗して、様々な原因の探究がなされたのですが、結局は、もともとの「脳の病気」という見方に戻ったようなあり方になっています。

要は、もともとあった「脳の病気」という見方に、回帰したようなものです。

既に述べたように、近代社会成立の当時、それまでの時代や他の(未開の)文化でなされた、「精神病は<憑依>現象」と言うような見方を排して、「病気」として捉えていく方向が定められました。そして、そのような見方を埋める具体的な方途が探られました。要は、そうするうえで、当初の必要性を満たすものとしては、やはり、「脳の病気」とみる方向こそがふさわしかった、ということなのです。

統合失調の原因を探求するということで言うと、問題は、精神医学(精神病理学)や精神分析は、「様々な観点」から原因を探究すると言っても、それは、既に近代社会「特有」の見方が出来上がっていて、その延長上になされたものなので、それまでの見方を大きく排して制限されていたり、「病気」ということで大まかな方向がつけられたものだったということです。

そのような「見方」の延長上では、十分に原因を探求することができなかったとしても、そのような「見方」をわきに置いて、もっと広い視点から原因を探るなら、十分その目的は達し得るということです。

 

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