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2021年10月 5日 (火)

『精霊に捕まって倒れる』-精神の病と異文化の問題

私は、記事『一過性の現象としての「統合失調」』で、「統合失調」とは、「異文化との接触」の問題であること。そして、記事『「異文化の衝撃」と「分裂病」』では、内部に引き起こされた「異文化の衝撃」が、いかに衝撃的なものであるかを、述べていた。
 
最近、その「異文化」と「精神の病」の問題を、正面からとりあげている本を読んだ。アン・ファディマン著『精霊に捕まって倒れる』(みすず書房)という本である。
 
ラオスを追われて、アメリカに移住することになった少数民族のモン族と、アメリカの医療との間で、「精神の病」の捉え方が、いかに根本的に異なるか、その文化の相違がもたらす様々な葛藤を、克明に描き出している。それは、絶望的と言えるほど、痛ましいものである。
 
この本の例では、「統合失調」ではなく、「てんかん」についてだが、モン族は、「てんかん」について、「驚いて魂が離れた状態の者を、精霊が捕まえて、倒したもの」とみる。それは、動物の生贄を伴うシャーマンの儀式によって、「魂を取り戻す」ことでしか、治療できない。ただし、この「精霊に捕まる」という状態は、それを克服すれば、シャーマンになれる資質でもあるので、「聖なる病」として敬われてもいる。
 
ところが、アメリカの医療では、もちろん「てんかん」は、だたの脳の異常であり、病院に入院して、抗てんかん薬によって治療すべきものである。
 
このような、本当に真逆としか言いようがない、相容れない捉え方が、衝突するのである。モン族のてんかんにかかった子供は、アメリカの医療とそれを全然信用しない、モン族の親との間で、引き裂かれるような状況になる。
 
結局、子供は、激しいてんかん発作を起こして、以後長らく死ぬことはなかったが、植物状態となってしまう。
 
モン族の親は、アメリカの医療が、モン族の治療を拒んだのみならず、多量の薬がさらに悪化させて、子供をそのような状態に陥らせたとみる。ところが、アメリカの医療は、モン族の親が、医師の言うことを聞き、もっと早く投薬治療をさせれば、そのような事態は避けられたとみる。
 
これは、モン族がアメリカに移住した初期の1980年代のことで、当時は、その文化的相違は、どうしようもないほど埋めようがないものだったことが分かる。現在は、モン族も、ある程度アメリカ的なものを受け入れて変わってきているし、アメリカの医療も文化的相違に理解を示すようにはなっているが、何ら解決はされておらず、根本的な問題であることに変わりはない。
 
本来は、「病気」全般について言えるはずだが、特に「精神の病」とは、「ものの見方」あるいは「捉え方」、つまり「文化」そのものの問題であることを、改めて感じざるを得ない。
 
アメリカの医療こそ、近代的な医学に基づいた科学的なもので、モン族のような捉え方は、後進文化による、「迷信」そのものと捉えていたら、この問題は、何ら解決の糸口はない。アメリカの医療もまた、西洋近代という「文化」そのものの産物なのである。
 
私は、全面的にではないが、モン族の捉え方の方が、真実に近い捉え方と思う。
 
「てんかん」は、「魂が離れている状態の者が、精霊に捕まって倒れる」ということだった。それでは、その捉え方に照らせば、「統合失調」の場合はどうなるか。
 
それは、「魂は体にいるが、やはり精霊に捕まって、倒れんばかりに、混乱している状態」ということになるだろう。魂が体にいる分、その混乱や葛藤が激しくなるのである。
 
モン族で、この状態がどのように解されているか分からないが、恐らく、「聖なる病」として、「てんかん」の場合と近い見方がされているはずである。
 
西洋近代という、ある意味特殊な文化の中にいる現代の我々にとっては、「統合失調」という「異文化の衝撃」自体が、本人自身にも、周りにも、理解される余地がない。本人が、それを、自文化に無理やり引き寄せて解釈しようとすると、「妄想」のような問題が起こる。周りが、それを、自文化に引き寄せれば、「治りがたい病気」として、病院に「厄介払い」するしかない問題となる。
 
ところが、逆に、本人にしても、周りにしても、内部に抱えられた、「異文化」の方に身を寄せれば、周りの「文化」との葛藤は、さらに激しいものとなる。いずれにしても、「異文化との葛藤」を免れない
 
「精神の病」とは、「異文化の問題」であることを、改めてつくづく感じさせられた。

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コメント

注の形で入れ込もうと思ったが、改行がうまくいかないので、こちらに記載します。

「統合失調」の「異文化の衝撃」については、記事『「異文化の衝撃」と「分裂病」』の、特に、「「精霊」には、あらゆる「世界観」を「無効」にするような「破壊力」が秘められているのであり、どのような「人間的な文化」にとっても、「異文化」となる要素を秘めている 」というところを参照してほしい。

モン族がアメリカに移住することとなる経緯については、ウィキペディア(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E6%97%8F_(Hmong))にも大要が述べられている。モン族はアメリカの都合で、アメリカに連れて来られたようなものだが、それが異文化の問題を大きくこじ開けさせた。モン族は、共産ラオスにおける戦闘で、安く戦闘部隊としても狩り出されたのだが、非常に優秀で怖れられたということである。これは、カスタネダのドンファン(老人)が、闇の中でも自在に藪を歩き回ったり、カスタネダが追いつけないほど、山野を駆け巡ったりしていたことからも、頷ける。

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