« 「捕食者」にとっての「医療システム」 | トップページ | 内海医師の「アホ」論  »

2014年7月30日 (水)

「物語としての精神分裂病」他

精神病を知る本』(宝島社文庫)に所収されている、「物語としての精神分裂病」及び「精神病にとって「治る」とはどういうことか」は、赤坂憲雄という民俗学者(思想家)の優れた論考である。「精神医学」の「外部」から、「分裂病」(ここではこれで統一する)を思想的、歴史的、文化的などを含めた、全体的な視野から総括している。これは、「分裂病」を概観するのに、これ以上ないというほど、適当なものだと改めて思った。

分裂病を概観するのに、参照すべき本を載せた、「関連基本書籍の抜粋」という記事(http://tiem.cocolog-nifty.com/blog/cat22996767/index.html)にも、新たに、この本を入れておいた。(カスタネダの『無限の本質』は、記事「「捕食者」についての本」(http://tiem.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post-967b.html)でもとり上げているし、分裂病を概観するというには、多少込み入っているので、外しておいた。)

この「関連書籍」でも、精神科医宮本忠雄の『精神分裂病の世界』というのを、基本的な書物としてあげておいた。が、これは、社会的な面や、分裂病者の内面世界など、精神科医の書いたものとしては、かなり行き届いているのだが、やはり、精神医学という視点に縛られた面が多分にある。それでは、決して、分裂病の全体像、さらに本質は、把握できないから、他にも様々な領域の本をあげているのである。

ところが、この論考は、精神医学という枠を超えて、むしろ、精神医学による「分裂病」という捉え方自体を、「物語としての精神分裂病」として第一に問題にし、さらに、それを踏まえて、「分裂病」の実質は何なのか、「治る」とはどういうことなのか、ということを考察するところまで、踏み込んでいる。さすがに、「オカルト」的なものまでには踏み込んでいないが、それは現段階で望み得ることではないかもしれない。「間の病」、「イニシエーション」という視点など、本ブログで取り上げた視点とも、かなり重なるものがある。

繰り返すが、「分裂病」を、概観し、考察するに当たっては、「精神医学」という、専門化された(「イデオロギー」の)枠の内部では、あまりに狭過ぎ、とても無理である。しかし、その枠を超えて、あるいは、その枠そのものを批判的に考察したうえで、全体的、総合的に、「分裂病」を概観するという試みは、これまでなかなかなかったと思う。

それで、これは、「分裂病」を現在において、全体として概観するのに、最も適したものだと思うので、ぜひ、多くの人に、読んでもらいたい。

もっとも、この論考は、初版が1986年で、かなり古いものなのだが、今でも、十分通用するというより、ある意味、新しいくらいの内容である。精神薬については、当時としては、十分切り込んでいけなかったろうが、その点は、内海医師等の本で、補ってもらえばよい。

「物語としての精神分裂病」とは、簡単にいうと、近代の精神医学が、作り上げた、イデオロギーとしての「分裂病像」である。近代以前には、また未開社会などでは、、一過性の錯乱現象としてしか知られていなかった現象が、長期に及ぶ、隔離、収容による「治療」を必要とする、重篤な「病気」として作り出された。

その「物語」として、特にあげられるのが、「内因性の神話」と「主体喪失の物語」である。「内因性」とは、「遺伝的な素因を想定された、何らかの身体的原因に基づく」というほどの意味で、非常に曖昧なものだが、分裂病が、原因やメカニズムが分からないにも拘わらず、「病気」として規定されるのに、この「神話」が大きく貢献した。「遺伝的な素因」というところからも、「優生思想」と結びついているのが分かる。これは、現在では、「脳の病気」、「化学的不均衡」という「神話」に、通じているものといえる。

「主体喪失の物語」とは、分裂病者を、「病者」として、人格も責任ももたない、「主体」なきものとして捉え、実際にそのように扱うことである。また、そのように、「主体なきもの」とされることによって、逆に、他の者を、「主体」として立たせる、スケープゴート的な役目を果たしたのである。

「治る」ということでは、医療的手段の介入による「治療」ではなく、自然治癒力による「癒し」ということが、基本として強調される。それは、社会や人との関係の中での、「癒し」でもある。その過程については、ベイトソンの「イニシエーション」という発想や、レインの「霊的航海」ということも、顧みられている。全体として、ほんの概観には過ぎないが、精神医学の枠を超えた、「治癒」の可能性が、示唆されているのである。

このように、現在において、「分裂病」を再考するための、基本的な書物となってしかるべきものと思う。

« 「捕食者」にとっての「医療システム」 | トップページ | 内海医師の「アホ」論  »

精神医学」カテゴリの記事

コメント

ティエムさん、こんばんは。
ご無沙汰いたしております。

こちらの本、実は私もちょうど読んだところでした。
今も手元にあります。
ティエムさんの言葉をお借りしますが、

>繰り返すが、「分裂病」を、概観し、考察するに当たっては、
「精神医学」という、専門化された(「イデオロギー」の)枠の内部では、
あまりに狭過ぎ、とても無理である。

と、同様に思い、たまたまたどり着いたのが赤坂憲雄氏でした。
そもそもの、排除、差別というもの、また狂気と呼ばれるものについて
精神医学や医学から離れたところからの論考に触れたいと考えていたからです。
(ブログを閉じた理由のひとつです)
赤坂氏の「排除の現象学」(秀逸だと思います)や「境界の発生」、
赤松啓介氏の「差別の民俗学」、他に吉田禎吾氏の本など、いくつか読みました。
中でも赤坂氏の鋭い視点と論考に感銘を受け、もっと読んでみたいと購入したのが
こちらの「精神病を知る本」でした。

>しかし、その枠を超えて、あるいは、その枠そのものを批判的に考察したうえで、
全体的、総合的に、「分裂病」を概観するという試みは、これまでなかなかなかったと思う。
>初版が1986年で、かなり古いものなのだが、
今でも、十分通用するというより、ある意味、新しいくらいの内容である。

おっしゃる通りだと思います。
過去にはこのように優れた考察が本となって出回っていたのだという事実に驚くとともに
それを受け入れることが難しくなる一方の現代社会という事実に嘆息。
「排除の現象学」のあとがきに
「あたらしげなものが古めかしく、古さびたものが新しいという逆説が、
時代のめまぐるしい変転の底に横たわり、黙したままに人々の言説の
真/偽を、深/浅を裁いている、そんな気がしてならない。」
という文章がありました。
四半世紀近く前の言葉ですが、今という時代に向けられたかのように思えます。

一部の者達からは、まさに「排除」「封印」してしまいたい見方なのかもしれない、
精神医学の土俵に立たない考察であるからこそ、
あらためて今、多くの人に知ってほしいと感じました。

大きく共感を覚えるティエムさんの記事の連続、いつも繰り返し読ませていただいています。
ありがとうございます。

こころのホタルさん、どうもお久しぶりです。お元気そうでなによりです。

私も、ちょうど、この記事を書いた頃にですが、ホタルさんのプログが閉じられたことを知り、どうしてるかなと、心に思い浮かべていたところでした(笑)。

思えば、私のブログが内海医師のブログにリンクされて、そこからかなりの人が来てくれていますが、それもこころのホタルさんが私の記事をブログで紹介してくれたお陰なのでした。

赤坂憲雄氏については。『排除の現象学』は読んでないですが、『異人論序説』は読みました。やはり、「排除」ということがテーマの鋭い考察で、分裂病についても一章が書かれています。仰るとおり、「過去にはこのように優れた考察が本となって出回っていたのだという事実に驚くとともに それを受け入れることが難しくなる一方の現代社会という事実に嘆息。」しますね。赤坂氏自身にも、もっとこのテーマを追求してほしかった思いはありますが、基本的なところはこれらの著作で十分に提示してあるので、あとは各自で詰めるべきものなのかもしれません。

『精神病を知る本』での論考も、今後における精神病(分裂病)の考察ということについては、本当に基本的な視点になってほしいと思います。絶版などにはならないよう願いたいですね。多くの人は、本屋に並んでいる、精神科医の書いた統合失調症に関する説明書を読んで、鵜呑みにするのだろうことを考えても、そう思います。

ティエムさん、こんにちは。知人の風鈴被害の件は、有用な意見有難うございました。さて、風鈴被害のその後なんですが、今年もどうやら「時間が解決」してくれそうだと話していました。ティエムさんには、相談に乗って頂き感謝します。


コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/575359/60065296

この記事へのトラックバック一覧です: 「物語としての精神分裂病」他 :

« 「捕食者」にとっての「医療システム」 | トップページ | 内海医師の「アホ」論  »

新設ページ

ガジェット時計Part11(光る玉・バージョン) - ガジェットダウンロードするなら、ガジェットギャラリー
2017年4月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
無料ブログはココログ