結局は「おいしい」か「まずい」か
「捕食者」の「捕食」ということについて、いろいろ言ってきた。人間の感情的エネルギーが、彼らの「エネルギー源」だから、それを「食う」というのは、確かにそのとおりである。彼らも、「エネルギー」源(新陳代謝)なしでは、やっていけない。
しかし、結局、突き詰めれば、「おいしい」か「まずい」かということになる。要は、「おいしい」からそれを「食う」のであり、その他のことは、付随的なものである。彼らなりに、「グルメ」を極めていたら、人間の、それも「恐怖」や「苦悩」のエネルギーほど「おいしい」ものはないことに気づいたから、それを「食う」ための巧妙な「システム」を築き上げたということなのである。
我々だって、「食」には、完全に「嗜好」が付きまとっている。確かに、生きるために「食う」ということも、「一時的」な真実としてはあるだろう。しかし、本当のところは、逆に、「食う」ために「生きる」といった方が、よほど真実に近いはずだ。
どんな「食う」ことにも、このような「嗜好性」ないし「快楽」が、付きまとっている。「捕食者」のそれは、それを極めたものということができる。「食」に対して「選択」のきく、人間以上の存在にとって、「食」とは、そのようなものにならざるを得ないのである。
「人の不幸は蜜の味」と言われる。彼らにとって、それは、文字通りの意味で、「味」なのである。(人にとっても、それが「蜜の味」なのは、我々が、やはり「捕食者」と通じる「心」を持っているからである。)
「天国」と「地獄」を比べると、「天国」はどこの宗教でも似たような「平坦」な「内容」だが、「地獄」は、実に多様な、想像し得る限るの、「バリエーション」に富んでいることを述べた。「恐怖」こそが、このような、「想像力」の多様な展開をもたらすのである。それは、彼らにとっては、「恐怖」ほど、変化と多様性に富んだ、深みのある「味」を、もたらすものはないということである。
それは、「幸福」と「不幸」についても言い得ることだろう。たとえば、多くの人に、「私の幸福」と「私の不幸」という題で、作文を書かせたら、「私の幸福」は、決してそれほど内容に差がない、どれも似たようなものとなるだろう。が、「私の不幸」には、実に思いがけない、様々な「不幸」が、顔をのぞかすことだろう。「不幸」には、それだけ「多様」さと「深み」があるということであり、それは、彼らからすれば、「味」としても、飽きの来ない、重層的なものを生み出すということである。
彼らは、一般的に、人の「感情」エネルギーを「食し」もするのだろうが、このように、特に「恐怖」や「苦悩」を、「選択」的に「食」す方向へと、自らを「進化」させて来たといえる。そこで、当然、人に、そのような感情を、起こさせることには、長けているのである。
しかし、我々も、ブロイラー育ちの鳥よりも、歯ごたえのある、地鶏を好むように、彼らにも、その対象には、えり好みがある。「社会」や「集団」の中に埋没して、疲弊し、疲れ切っている者よりも、社会や集団からは、あぶれるが、生きのいい、エネルギーの余っている者の方が、「おいしい」に決まっている。ラカンは、「分裂気質」の者は、「社会」的に「虚勢」されていないと言うが、それは、彼らからすれば、まさに「食指」をそそるということである。また、シュタイナーは、「ルシファー」的な欲望や情熱があふれ出るところには、「アーリマン」存在がハエのように集ると言うが、それも、同じような状況を意味している。
但し、それは、必ずしも、見た目が「生き生き」していることではなくて、内的に、「エネルギー」が「貯蔵」されているということである。振幅の大きく、激しい、「恐怖」や「苦悩」が回収できることが重要なのである。「分裂気質」の者は、典型的に、そのような対象にあたるということができる。
ところが、このように、「嗜好」を極めた、彼らの「飽食」システムは、そういつまでも、うまく機能するはずはないのである。その「嗜好」は、もはや、他のものでは満足できないだけの渇望を、常にもたらしている。ところが、ますます疲弊する多くの人間から、今以上の「恐怖」や「苦悩」を安定的に回収することが、今後も可能とは思われない。分裂気質の者すら、もはや、かつてのような、大きな「恐怖」や「苦悩」をもたらす見込みは薄くなっている。(それは、分裂病の軽症化という形でも現れている。)
「産業社会」は、彼らなりに、このようなものを、「大量生産」し、安定的に供給できる、「優れた」システムだったのだろうが、もはや「頭打ち」によって、行き詰まっていることは明らかである。彼らとしても、「窮地」に立たされていると思われるのである。(このことは、実際、私自身、肌で感じ取ったことでもある。)
今後、人間の社会に、どのような展開が起こるかというのは、このような「捕食者」との絡みでも、注目されることである。
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