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2009年3月30日 (月)

「異文化の衝撃」と「分裂病」

前回ヤノマミ族の「世界観」を取り上げたが、ネットで検索してみても、あの番組に衝撃を受けたというブログなどの記事が結構あった。それは、一言で言えば、「異文化の衝撃」ということである。

ヤノマミの「世界観」は、現代の日本の文化的「世界観」と、ほとんど対極に位置するものといえる。それだけに、それを如実に映し出す番組の映像は、我々にとって、大きなショックだったのである。

我々の現代の文化的「世界観」とは、多くの点で西洋文明と共通するもので、我々は、それを「普遍的」なものとか、「進歩的」なものと思っている。が、番組で取り上げられた、ヤノマミの世界観や日常的行いは、そのような「見方」と、真っ向から対立するものを、多く突きつけてきたのである。

しかし、恐らく、西洋人であれば、自らの文化の「普遍性」や「優位性」を強く疑わないので、それを、特に「衝撃」とは受け取らないかもしれない。ところが、日本では、つい最近まで、伝統的には、彼らの「世界観」と十分通じる「世界観」をもっていたのだし、同じモンゴロイドということもある。それで、西洋人のようには、一方的に突き放した「見方」はできず、それだけ、「衝撃」として受け取られる部分も多かったのだと思う。

(逆に、彼らの方でも、西洋人に比べれば、日本人には親近感を感じる部分があるはずで、だからこそ、あのような密着した取材も可能になったのだろう。)

その、現代の日本の文化的「世界観」ということだが、前に、それは「世間教」ともいうべきもので、そこでは、「唯物論」と「無宗教」が、柱となっていることを述べた。そして、その「唯物論」というのも、明確で意識的なものとしてではなく、いわば「空気」のような、漠然たるものとして、無自覚的に身につけられたものであることを述べた。

この点も、西洋とは大きく異なる点の一つである。西洋では、「唯物論」というのも、無自覚的なものというよりは、「神」との関係で、葛藤とともに、十分、意識的に生じるはずのものだからである。

しかし、日本では、それが特に「唯物論」という一つの「世界観」であることすら意識されずに、「世間」を通して、何となく、身につけられてしまうのである。それは、無自覚的な、「感覚」のようなもので、特に意識に上ることも少なければ、それに疑いを向けられるということも少ない。日本の「世間」の中では、一種の「暗黙の了解」として、自明なもののように機能しているので、特にそれが問われることもないのである。

だから、日本人にとっては、それが本当に問われる機会というのは、外国旅行や留学その他による外国文化との接触であったり、たとえテレビであっても、真っ向から現代の日本の文化と対抗する面をもつ、「未開」の部族の番組であったりするのだといえる。

日本の「世間」の内部にいる限り、それが問われることはほとんどないが、むしろ、そこから「外れる」ものを目の当たりにするときは、それが改めて、強く問われれたり、意識されることになるのである。

まさに、「異文化の衝撃」というのは、現代の日本にとってこそ、大きな意味をもつ言葉といえる。

ところで、これまで述べて来た「分裂病的状況」というのも、まさに、そのような「異文化の衝撃」ということの延長上においてみると、理解し易いものとなるはずである。

「分裂病的状況」というのも、結局は、現在の我々の文化にとっては、「異文化」そのもの、というよりも、むしろ、それをも超えた、「異存在の文化」との接触だからである。そして、その「接触」も、「異文化」との接触の場合以上に、急激かつ直接的な形で、正面から受けることになるので、その「衝撃」も、より強烈なものになるということができる。

一般に、「異文化の衝撃」の場合は、それがたとえ急激な形で起こったとしても、それまでの「世界観」が大きく問われはしても、一気に「崩壊」へと導かれるということは、まずないだろう。

ところが、分裂病的状況の場合、その「異文化」の「異質性」も強烈で、また、非常に急激かつ集中的に起こるため、それは、それまでの「世界観」を大きく揺さぶるだけでなく、一気に「崩壊」させるだけの「力」をもつことが多いのである。いわば、「異文化の<襲撃>」である。

分裂病において、よく「自己の崩壊」とか「世界没落体験」などと言われるが、それは要するに、実質的には、多くの部分が、それまでの「世界観」の、より急激な「崩壊」ということに基づいている。深く身についた既成の「世界観」というのは、実質的には、それこそが、その者にとっての「世界」そのものであり、「自己」そのものといえるからである。それが急激に「崩壊」するときには、実際に、「世界」そのものが、「崩壊」するのを目の当たりにするのである。

ただし、分裂病者も、通常、その「崩壊」に対しては、大きな抵抗を示す。「妄想」というのは、要するに、それまでの「世界観」の綻びを、何とか埋めようと、その延長上に、無理やり築かるものである。

その典型的なものは、「警察やCIAなどの組織に狙われる」とか、「盗聴されて自分のことが他人に知られる」などだが、これらは、起こっていることを、何とかそれまでの既成の「世界観」の範囲に無理やり押し込めて、出てくるものである。特に、「唯物論」的な世界観では、「見えない存在」や「テレパシー」などの霊的な現象は認められないので、その範囲で可能な解釈を、何とか紡ぎ出しているのである。既に見たように、そのような解釈が無理であることに気づかれると、「宇宙人」という発想も出てくるが、それも、既成の「唯物論」的解釈の延長上に、何とか矛盾しないような発想として、出てくるものといえる。

但し、「分裂病的状況」での衝撃度も、要は、その者の既成の「世界観」との関係で違っってくるので、既成の「世界観」への囚われが強いかそうでないか、また、一般の「唯物論」的世界観か、それと異なる世界観をもっているか、などによって、変わってくる。

ただ、そうであれば、「霊的」な存在を認めるような「世界観」の持主であれば、分裂病にならないのかというと、そんなことはない。一般に、霊的なものを認めるといっても、それは「観念的」なものであることが多く、それが観念的なものである限り、やはり既成の「世界観」の延長上か、それとの関係において築かれるものである。それで、実際の「接触」の状況では、やはり、何ほどか、既成の「世界観」の崩壊をもたらさずにはおかないのである。これは、たとえて言えば、「異文化」の存在について「知っている」のと、実際に、その文化と「接触する」ことの違いといえる。

また、「体験的」に霊的なものについて、何ほどか知っていたとしても、「分裂病的状況」では、やはり「人間」とは異なる、一種「特殊」な「破壊的」要素の強い存在と見えることになるので、それでも、その者の既成の「世界観」を「崩壊」に導く要素が多くあるといわねばならない。

この点は、例えば、「精霊」などの存在について多くを知っている「世界観」の持主である「未開」の部族でも、実際に、その「精霊」と深く交流する、シャーマンの「イニシエーション」などでは、その者に象徴的な「死」をもたらすような、強度の衝撃をもたらすことにもみてとれる。

あえて言えば、「精霊」には、あらゆる「世界観」を「無効」にするような「破壊力」が秘められているのであり、どのような「人間的な文化」にとっても、「異文化」となる要素を秘めている、ということである。

但し、霊的なものについて認めている者は、その「妄想」の解釈にも、それが反映されることになるので、「妄想」の内容は違ってくる。(たとえば、「神」や「悪魔」、「天使」などが登場する。)ただ、それも結局は、その者の既成の「世界観」の綻びを埋めようとする「解釈」になるので、はた目にも分かるような、「無理」のあるものになるという点では、「唯物論」的な「世界観」の場合と異ならないはずである。

「精霊」というのは、「神」や「悪魔」や「天使」 の、最も「原初的」な姿と言えるが、「神」や「悪魔」や「天使」が、人間の観念的な理解(特に「善悪の観念」)を受け付けるのに対して、そのような「解釈」を悉くはねのける性質があるのが、特徴と言える。それだけに、人間にとっては、「破壊力」がある訳である。

ただ、その「破壊力」は、人間を、それまでの「あり方」から開放し、新たな「あり方」へと変容させるのにも大きく力を発揮し、「イニシエーション」の担い手ともなるのである。

この、「精霊」の「イニシエーション」の担い手としての面については、既に述べたが、次回、まとめを兼ねて、もう一度述べ直してみたいと思う。

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