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2005年10月16日 (日)

2  「妄想」「幻覚」の特徴とされるもの

前回、一般の精神医学が記述する「分裂病」の症状を具体的にみた。今回は、そのまとめの意味で、「分裂病」の症状である「妄想」と「幻覚」について,その特徴とされるものをみておきたい。

参照にするのは、『精神病』(笠原嘉著)(岩波新書)である。これも、内容が穏当で十分納得できるものであるし、要領よく簡潔にまとめられているからである。前回同様、とりあえず、ざっとみておくことが目的だが、簡単なコメントも差し挟んでおきたい。

「特徴」というのは、妄想と幻覚について、あくまで「分裂病ならでは」の特徴ということである。まず、妄想と幻覚の最大公約数的な特徴をあげると、次のようだとされる。

「このところ周囲の人々の様子が変だ。不穏だ。どこへ行っても自分のことが知られている。」
「自分は平凡な人間で、そんなに大勢の人に顔を知られているとは思えない。それなのに人々がグルになって自分を追いかけている。どこへ行ってもついてくる。おかしなことだ。」
「なぜグルになっていることが分かるのか、といわれても説明しにくい。人のそぶりで分かる。彼らが口で言うわけではない。」
「あまり変なので、警察に行った。なぜこんなに追いかけられるのか、警察が知っていると思って聞きに行った。」

前回は出てこなかったが、「グルになって」というのもまた、重要なポイントだろう。
前回、世界について「内的なつながり」が浮かび上がると言ったが、この「グル」という言い方にも、それが覗われる。但し、この「内的なつながり」は、自分に対して「敵対的」なものとして浮かび上がっているのである。

次に「妄想」の特徴あげる。

妄想とは、簡単に言えば、「現実にはあり得ない誤った観念」である。しかし、これだけでは、日常生活上で出会われることもあり、迷信などとしても存在する。それが分裂病の妄想といえるのには、さらに次の特徴がある。

1「とても大きな不安」がそこに随伴している点。「世界がどうにかなりそうな、と表現してもよいほどの不安」とされる。

これはどれほど強調しても、強調し過ぎにはならないことで、その余韻はあとまで残って、彼らを萎縮させる、とされる。

2「絶対の確信」といわれるもの。誰に何と説得されようと訂正できず、えんえんと続く。妄想は典型的であるほど訂正できない。ときにはいったん納得したように見えても、たいていすぐ疑念が再燃してきて、元に戻ってしまう。

3あくまで「彼(彼女)一人の」信念で、誰かと共有されることは原則としてない。

一般に、何か「現実的でない」考えを抱いたり、捉われたりすることを「妄想」ということがある。しかしそれらは、一方で、妄想であることがどこかで認識されているのが普通である。ところが、分裂病の妄想の場合、それは現実のこととして、はっきり確信されるほどのものとなる(特徴の2)。あるいは、後に見るように、それはその妄想に基づいて、現実に何か行動に出てしまうことを迫るほどのものだ、と言った方が分かり易いかもしれない。

そして、まさに、かくも強く妄想が確信される理由を理解(了解)することこそが、実は分裂病理解(了解)の核心といえるのである。もちろんそれは、追って明らかにしていくことである。

また、分裂病の妄想は、「脅え」や「錯乱」としてはっきり外からも分かるほどの「強い不安」を伴う(特徴の1)。というより、むしろ、この「強い不安」こそが根底にあって、分裂病の「妄想」が強く確信させるほどのものとして生み出され、また内容としても方向づけられているるのだと言える。その意味では、先の分裂病理解(了解)の要点は、この「強い不安」を具体的に理解(了解)することにあるとも言える。

次に「幻覚」について

まず…、幻覚のあるところ、ほとんどつねに妄想もあるので、「幻覚妄想状態」と一括していうこともある、とされる。分裂病の場合、幻覚は、幻視よりも幻聴という形式が多い。さらに、脳の病気の場合と違って、意識の曇りなどが背景になく、意識が清明でも起こることが特徴とされる。

前回既にひと通りみたが、もう一度、この幻聴の特徴とされるものをあげてみる。

1聞こえるのは、「人の声」である。
2内容の一語一語ははっきりしないのに、意味は直観的に「一挙に」理解できる。
3直接話しかけてきたり、噂をしたり、自分の行為のいちいいちを批評したりする。
4声は、自分の気持ちや考えに強く影響する。無関心ではいられない。ときには、声の命令に(従うまいと思っても)従ってしまう。
5普通では聞こえないはずの遠い所からでも聞こえる(たとえば、何百メートルも離れたところから)。なにかしら、地上性を超えた「超越性」を帯びている。
6とてもとても不安で、世間に対して身構えてしまう。


この中で、とくに、外の力で自分が「影響される」という4の感じが苦しいものだとされる。「自分の感情や行動が、外からの力で引き起こされたり、変化させられたりすると感じる」(「させられ思考」「影響症状」)ということである。

さらに、これは「自己と非自己との境界の揺らぎ」として、次のように説明される。

これらは、幻聴と同じように、外の力が私という主権国家をおかし、もっとも基底的な個人の心理的自由を奪うのです。心の中での自己と非自己の間にある境界線、現実と空想との間にある境界線…が、分裂病になると…あいまいになります。これは分裂病の不安と深く関わっています。

まず、「幻覚」と「妄想」は常に一体となっていることが示唆されているが、「幻覚と妄想の関係」については、後にもっとつっこんで考察したい。

また、幻聴の特徴とされるものの中では、4の「させられ思考」「影響症状」(前回は「させられ体験」としてみた)が重視されていることが注目される。そして、それが「自己と非自己の境界の揺らぎ」として説明され、さらに、それこそが妄想に伴う「強い不安」と深く関わっているとされる。まさに、前回最後のところで、少し触れた点である。

この点も、後に展開されるべき大きなテーマなので、ここで一応確認しておいて欲しい。

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