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2005年10月 8日 (土)

1 「分裂病」の「症状」を具体的にみる

注)この1回から22回(06.3.28)までは、私の体験も踏まえて、「分裂病(統合失調症)的状況」に陥っていくとはどういうことかを、具体的にみていくものです。

必ずしも、順序を追って逐一やっていく訳ではないけれども、ここからは「狂気」の具体編に入ります。

初めに、分裂病性の「狂気」の典型的な例というのを、内面の動きにも踏み込みながら具体的に描き出してみようと思っていた。が、とりあえず、精神医学において一般的に分裂病(統合失調症)がどのようなものとして記述されているかをみておくことにしたい。それらは、外部的な観察によって明らかになったものに過ぎないが、それなりに経験的に裏付けられたものであり、まずは客観的に把握してもらうのがいいと思うからである。

そこで、まずは、『精神医学ハンドブック』(山下格著 日本評論社)から典型的な症状とされるものをいくつか抽出してみたい。これは、具体的に分かり易く表現されていて、イメージ的に把握するのに適していると思うからである。ここでは、とりあえずざっとみておくのが目的だが、ところどころ簡単なコメントもつけておきたい。

まずは、特に徴候として。

最初、まわりの様子や出来事が、奇妙に恐ろしく感じられる。たとえば風に揺れる並木、人々の話声がただ偶然に起きているのではなく、何か自分に関係があって、何かを指示するような、何か不気味な暗号があるような、ひどく恐ろしく、不安な感じ。妄想気分

分裂病的な状況に入っていく時の、初めの周りの世界の見え方、感じ方の変化について、分かり易く表現されていると思う。要するに、それまでの日常的な世界のあり方に、亀裂が入っていく瞬間である。

次に典型的な症状について。
大きく分けると「妄想」と「幻覚」に分けられる。(「ハンドブック」は、さらに「感情と意欲の障害」と「思考障害」を加えているが、ここでは略する。)

まずは「妄想」。

初めの「妄想気分」との関係でみると、

……そのうち、周りでおこることに何となく見当がついて、それなりの意味づけができるようになる。何の目的で誰がしているかは確かではないが、家の中に隠しカメラのようなものがあって、どこにいても、風呂場やトイレでも、壁を突き抜けて、絶えず自分の姿・行動が見られている。それが、町中に電波か何かで伝えられ、道で会う人が皆自分の考えや行動を知っていて「思考伝播」探るようにこちらを見る。「注察妄想」

これは、もっとも典型的な妄想の始まり方ではないかと思う。初め漠然として不気味だった世界の変化が、次第に意味づけられていく、つまり妄想として形成されていく様も表している。

職場ではもちろん皆が何でも知っていて、表情や仕草や言葉で暗示めいたサインを送るので、こちらもサインで返すと、相手にも意味が伝わる。自分が口で言わなくても、考えるだけで、こころが相手に伝わる。それはテレビでも同じで、アナウンサーは自分のことを知って関係のあることを話すし、自分が何か思うと、それに対して返事をしてくる。

これも、また「思考伝播」の典型的な発展だと思う。明示的に言葉で言わなくても、「意味」や「思考」がテレパシー的に伝わるというのがポイントである。それまで、自己と他者または外界は、当然のように切り離されたものとして存在していたのだが、それらがある種内的なつながりの下に浮かび上がってきたのである。あるいは、後に見るように、自己と他者または外界との境界が揺らいでいるのだと言える。

さらに、発展して、

……周りの雰囲気の変化も、それなりに理由が分かってくる。たとえば誰かが恐らく自分をねたんで、いやがらせをしていると思う。昔の友人たちに連絡してうわさを広げている。警察や暴力団にまで手をのばして、自分を監視させている。自分の様子を探るために絶えず車で家のまわりを走り、窓からのぞき込む。机の上の物がなくなったり置き換わったりするのは、誰が手下の仕わざと思う。警察や新聞社に訴えても、マジメに取り上げてもらえないのが口惜しい。「被害妄想」

ここまでくると、典型的な「被害妄想」となってくる。これまでその者を困惑させた周りの変化について、「理由が分かる」というのがポイントで、ここでは、自分がはっきり周りや世界からのけ者にされ、さらに攻撃、迫害の対象になっているという、「単純」で「明解」な意味づけがなされている。これまでの一連の出来事に、一つの「解答」のようなものが提供されたわけである。

さらに、……しかし、これだけ皆が騒ぐのは、自分が特別の人物であるからかもしれない。相手の考えがピンとわかり、こちらの意志もパッと伝えられるのは、自分が超能力者になったからだ。あるいはキリストの生まれ変わりではないか。「誇大妄想」

これはまさに、「被害妄想」の裏面ともいえることが分かろう。

次に「幻覚」。

この異様な意味づけ体験と関連して、しばしば相手の思い・考え・意図・返事が、ただの態度や身振りだけでなく、言葉になって伝わることがある。幻聴

たとえば、誰かが隠しカメラで自分の様子・行動をみて、「…着替えをしている。…風呂に入る。…ブス、ブス」と多くは非難めいたコメント入りの実況放送をする。……あるいは複数の人たちが自分のことをうわさする声のこともある。

声の主は、いつも特定の一人あるいは多数の知人、まったく知らない人、有名人、宇宙人、亡くなった父母など、さまざまである。声の発信・中継場所が隣室、特定の家、放送局などのこともあり、まったく不定のこともある。

比較的稀ではあるが、声とともに、あるいは声の代わりに、相手の顔が見えたり、恐ろしい怪獣や奇妙な虫らしいものが浮かんだりすることもある。(幻視

実際に、幻覚の内容は、妄想のそれと一致して、病者のこころを見透かして批判したり、皮肉・非難・叱責するものが多い。あるいは思いがけないことを教えたり、ときにはほめ言葉であったりする。

また、この指示的性質がいっそう強くなり、日常の生活内容までいちいち命令され、自分の考えや行動が誰かに操られているように感じることがある。
させられ体験病者は自分の意志がなくなったなどと訴える。

「幻覚」の声は、病者の心を見透かすということ。皮肉・非難・叱責するものが多いということ。さらに、声の指示・命令によって、操られるようになることがあるというのが重要である。幻覚の声というのは、単純に誰か他人の声というのではなく、自己を蹂躙し、乗っ取るかのような、ある種の「力」に満ちたものとして迫ってくるのである。

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